BTOパソコンを買おうとして、最後に迷う場所がある。
カスタマイズ画面だ。
GPUまでは決めた。
ところが、その先にはメモリ、SSD、電源、CPUクーラー、マザーボード、ケースファン、OS、保証など、大量の選択肢が並んでいる。
「メモリは32GBでいいのか、64GBにするべきか」
「電源はGoldでいいのか、Platinumまで必要なのか」
「CPUクーラーに数万円追加する意味はあるのか」
「SSDを4TBにするくらいなら、CPUを上げた方がいいのか」
迷った結果、結局すべて上位パーツにすると、PCの価格は一気に膨らむ。
しかし、生成AIや動画編集のためのPCでは、すべてのパーツに同じようにお金をかける必要はない。
大切なのは、
自分の作業を止める可能性が高い場所から、予算を配分することだ。
この記事では、生成AI、動画編集、3DCGなどの制作用途を前提に、BTOカスタマイズで「お金をかけたいパーツ」と「必要以上にお金をかけなくてもよいパーツ」を整理する。
結論:追加予算は、この順番で考える
生成AI・動画編集・3DCG用のBTOなら、追加予算の優先順位はおおむね次のように考えたい。
- 最優先 GPUとVRAM システムメモリ
- ハイエンドほど重要 電源 冷却設計
- 用途によって重要度が変わる CPU SSD容量
- 必要な条件を満たせば十分 マザーボード ケース・装飾 追加ソフト
もちろん用途によって順番は変わる。しかし、生成AI用のPCなのにCPUへ大きく予算を使い、GPUを一段下げる。あるいはRTX 5090を搭載しているのに、メモリや電源を極端に削る。こうした予算配分の逆転は避けたい。
BTOカスタマイズとは、高いパーツを選ぶ作業ではない。ボトルネックを作らないための予算配分である。
1. 最もお金をかけるべきなのはGPUとVRAM
生成AI・3DCG・GPUレンダリングでは、最初に決めたいのはGPUだ。
特に生成AIでは、単純な演算速度だけでなくVRAM容量が重要になる。
VRAMが不足すると、「少し遅くなる」で済まない場合がある。
- モデルがGPUメモリに載らない。
- 解像度を下げる。
- バッチサイズを小さくする。
- CPUメモリへオフロードする。
- 量子化する。
つまりVRAM不足は、作業方法そのものを変えてしまう。
だから、「CPUを一段上げるためにGPUを一段下げる」というカスタマイズは、AI用途では慎重に考えたい。
たとえば、RTX 5060 Ti 16GB、RTX 5080 16GB、RTX 5090 32GB、RTX PRO 6000 96GBでは、単なるGPU性能だけでなく「扱える計算の大きさ」が変わる。
特にRTX 5090は32GB GDDR7を搭載する。NVIDIA公式ではシステム電力要件は1000Wとされており、GPUそのものだけでなくPC全体の設計も一段変わるクラスだ。(NVIDIA公式)
生成AI用PCでは、まず必要VRAMを決め、そのGPUを中心に残りの構成を作る。これを基本にしたい。
2. 32GBから64GBへ。メモリは「後悔しにくい」投資
次に優先したいのがシステムメモリだ。
動画編集ソフトの公式推奨値を見ると、Adobe Premiereでは4K以上で32GB以上、After Effectsでも4K以上では32GB以上のRAMが推奨されている。(Adobe ヘルプセンター)
しかし、これは「快適な制作環境の上限」ではなく、ソフト単体を使う際の推奨値と考えた方がよい。
実際の制作では、Premiere Pro、After Effects、Photoshop、Blender、TouchDesigner、ComfyUI、Webブラウザなどを同時に開くことがある。
生成AIでは、GPUからCPU側へ処理を逃がすワークフローもあるため、システムメモリに余裕がある意味はさらに大きい。
CORE SPECでは、制作PCなら次のように考える。
- 32GB: ゲーム中心、一般的な制作、比較的軽い編集。
- 64GB: 生成AI、4K動画編集、After Effects、3DCGなどを本格的に行うなら最もバランスがよい。
- 128GB以上: ローカルLLM、大規模3DCG、複数の重量級ソフトを同時使用する環境。
予算に余裕があるなら、CPUをわずかに上げるより、「32GB → 64GB」へ増やした方が体感的な余裕につながる制作環境は多い。
3. 電源は「性能を上げるパーツ」ではない。しかし削りすぎない
電源ユニットを上位モデルにしても、レンダリング速度は速くならない。
だからBTOカスタマイズでは、削りたくなる。
しかしハイエンドGPUでは、電源は性能を出し続けるための土台になる。
NVIDIA公式では、RTX 5080のシステム電力要件は850W、RTX 5090では1000Wとされている。ただし、実際に必要な容量はCPUやストレージなどPC全体の構成によって変わる。(NVIDIA公式)
したがって、「RTX 5080なら必ず1000W」「RTX 5090なら必ず1200W」と一律に決める必要はない。
ただし、生成AIやレンダリングではGPUへ長時間高い負荷をかける。そのためハイエンド構成では、必要容量ギリギリではなく、一定の余裕を持った電源を選びたい。
特にRTX 5090クラスでは、容量だけでなく、電源ユニット自体の品質、PCIe Gen 5系電源コネクタへの対応、高負荷時の余裕、保証などを重視する。
(※ 80 PLUS Bronze / Gold / Platinum等は主に電源変換効率の認証であって、品質そのものの絶対的なランキングではありません。指標として参考にはなりますが、認証ランクだけで判断しないことが大切です。)
電源は「速くするため」ではなく、高価なGPUを安定して使い続けるために払うお金と考えると分かりやすい。
4. 冷却設計は、瞬間性能ではなく「持続性能」
CPUクーラーやケースファンも同じだ。「360mm簡易水冷を選べば正解」というほど単純ではない。
必要な冷却能力は搭載するCPUによって変わる。
しかし、生成AI、エンコード、3DCGレンダリングなどでは、ゲーム以上にPC全体へ長時間負荷をかける場合がある。
そこで重要になるのが、ピーク性能ではなく、持続性能だ。
数分間のベンチマークでは高速でも、長時間負荷で温度が上がり、クロックが落ちるのであれば、制作PCとしては理想的とは言えない。
RTX 5080は360W、5090は575Wと、GPUクラスが上がるほどPC内部の排熱は厳しくなる。上位CPUやハイエンドGPUを使用する長時間のAI処理・レンダリング用途では、CPUクーラー単体だけでなく、ケース全体のエアフロー(熱設計)まで確認したい。
逆に、消費電力の低いCPUなのに最大級の水冷クーラーを選ぶ必要はない。
冷却も、CPU名やGPU名だけで決めるのではなく、「どれだけ長時間負荷をかけるか」から考える。
5. CPUは「高いほどいい」とは限らない
BTOカスタマイズで最も価格を上げやすいパーツのひとつがCPUだ。
Core UltraやRyzenの上位モデルを見ると、つい最上位を選びたくなる。
しかし生成AIでは、多くの処理がGPU中心になる。
GPUがボトルネックになっている環境でCPUへ数万円追加しても、そのまま生成速度が大幅に上がるとは限らない。
だから生成AI中心なら、「GPUを守ったうえでCPUを決める」。この順番にしたい。
一方で、After Effects、動画エンコード、CPUレンダリング、シミュレーション、複数アプリの同時利用ではCPU性能の重要度が跳ね上がる。
つまりCPUは「削っていいパーツ」ではなく、用途によって追加投資の効果が大きく変わるパーツなのである。
6. SSDは容量だけでなく「作業を止めない構成」
SSDも、大容量モデルを選べば正解というわけではない。
制作PCでは、OS・アプリ、キャッシュ、制作データが同じドライブへ集中すると、容量管理が面倒になりやすい。
AdobeもAfter Effectsでは高速な内蔵SSDに加えて、メディア用の追加高速ドライブを推奨している。(Adobe ヘルプセンター)
たとえば、
SSD 1:OS・アプリ用
SSD 2:制作データ・キャッシュ用
と分ける方法がある。
生成AIでもモデル、LoRA、動画生成結果、キャッシュなどでストレージは急速に増える。
そのため、最初から巨大な1台を買うだけでなく、「後からSSDを追加できる構成か」を見ることも重要だ。
7. マザーボードは「最高級」ではなく、必要な拡張性を見る
BTOでは、上位マザーボードへ変更すると数万円単位で価格が上がることがある。
しかし、高価なマザーボード=PCが高速になる、とは限らない。
見るべきなのは、M.2スロット数、PCI Express拡張性、メモリスロット、USB/Thunderboltなどの端子、ネットワーク、将来の増設余地である。
SSDを何枚も追加したい、キャプチャーカードを使いたい、10GbEを追加したい等の明確な目的があるなら上位マザーボードには意味がある。
逆に、「GPU1枚+SSD1〜2枚で完結するPC」なら、必要以上に上位モデルへ変更しなくてもよい。
8. 削りやすいのは「性能に直接関係しない追加費用」
では、どこなら予算を削りやすいのか。
代表的なのは、過剰なRGB・装飾、用途のない最上位マザーボード、不要な光学ドライブ、使用しないWi-Fi・拡張カード、必要性を確認していない追加ソフト、用途以上に大きなCPU、必要性のない極端な電源容量などだ。
もちろんデザインを重視するならRGBへお金をかけてもよい。
重要なのは、「その追加料金によって、自分の制作で何が変わるのか」を説明できるかどうかだ。
説明できないオプションは、一度外して考える。
そこで浮いた2万円、3万円を、GPU、VRAM、メモリ、冷却、SSDへ戻す。その方が制作PCとして合理的な場合は多い。
GPUクラス別 おすすめカスタマイズ基準表
| GPUクラス | 推奨システムメモリ | 電源の考え方 | 冷却設計 | SSD構成 |
|---|---|---|---|---|
| RTX 5060 / 5060 Ti フルHD制作・軽いAI | 32GB基本 AI制作なら64GBも検討 |
600〜750W級。 GPU・CPU構成を確認 |
CPUに応じた空冷〜240mm水冷。 ケースエアフロー確認 |
1TB以上、制作なら2TB推奨 |
| RTX 5070 / 5070 Ti WQHD・画像生成入門 | 32〜64GB 用途で分かれる |
650〜850W級。 5070 Tiや上位CPUでは余裕を見る |
CPUに応じて大型空冷〜240/360mm水冷 |
2TBを基準。 動画なら追加SSDも検討 |
| RTX 5080 4K映像・高負荷AI | 64GBを基準 |
850W以上を基準。 上位CPU・増設構成なら1000Wも候補 |
CPUクーラーだけでなくGPUを含むケース全体の排熱を重視 |
2TB以上推奨。 キャッシュ・素材用SSD分離も有効 |
| RTX 5090 AI・大規模3DCG | 64〜128GB |
1000W以上を基準。 上位CPUや増設構成では1200W級も検討 |
長時間のGPU負荷を支えるケース冷却を最重視。 CPUクーラーはCPUに合わせる |
OS/アプリ用+作業用SSDの2ドライブ構成を推奨 |
用途別:どこに追加予算を使うか
AI画像生成・ComfyUI
優先順位は、GPU/VRAM → メモリ → SSD容量 → CPU と考えやすい。
CPUを最上位にするより、VRAMの多いGPUを優先したい。
ローカルLLM
まずモデルがVRAMに収まるかを見る。
VRAM → システムメモリ → SSD → CPU という順番になる。
大規模モデルではシステムメモリへのオフロードも重要になるため、64GBだけでなく128GB以上も検討対象になる。
Premiere Pro・After Effects
AI用途ほどVRAM一辺倒ではない。
GPU → メモリ → CPU → SSD のバランスを重視する。
特に4K以上の制作では、Adobeも32GB以上のRAMや高速SSDを推奨している。本格的に複数ソフトを併用するなら、64GBは有力な選択肢になる。
3DCG・VFX
使用するレンダラーによって変わる。
GPUレンダリング中心ならGPU・VRAM。CPUレンダリングやシミュレーション中心ならCPU・システムメモリ。
巨大なテクスチャやシーンを扱うならVRAMとメモリ双方の容量が重要になる。「3DCGだからこの構成」ではなく、どの処理をGPUとCPUのどちらで行うかまで考えたい。
迷ったら「何が足りなくなったら仕事が止まるか」で決める
BTOのカスタマイズ画面を見ると、すべての上位パーツが魅力的に見える。
しかし予算には限りがある。
そこで考えたいのが、「そのパーツが足りなかった時、自分の仕事はどうなるのか」だ。
- VRAMが足りない → モデルが載らない。
- メモリが足りない → 複数ソフトを同時に開けない。
- SSDが足りない → 素材や生成データを頻繁に移動しなければならない。
- 冷却が足りない → 長時間の高負荷を維持しにくい。
一方、
- 最上位CPUでなくても仕事は成立する。
- RGBがなくても生成速度は変わらない。
- 使わない拡張機能のために高級マザーボードを選ぶ必要もない。
この違いを見極めればいい。
BTOカスタマイズの正解は「全部盛り」ではない
高性能PCでは、価格が上がるほど安心できるように感じる。
しかし、100万円のPCでも、用途と予算配分がずれていれば効率は悪い。
逆に30万円、40万円のPCでも、自分のボトルネックへ正しく予算を配分できていれば、非常に強い制作環境になる。
BTOカスタマイズで見るべきなのは、「どのパーツが一番高いか」ではない。
自分の試行回数を減らしているものは何か。
その場所にお金を使う。それ以外は削る。
それが、生成AI・動画編集・3DCGのためのBTOカスタマイズで最も大切な考え方だ。