前回の記事で、GPU選びにおける最大の落とし穴は「VRAM容量」だと書いた。GPUの計算速度ではなく、VRAMが足りないことで作業がエラーで止まる ── あの教訓は多くの読者に刺さったようだ。
では、CPUはどうか。
CPUの世界は、GPUよりも遥かに複雑だ。「コア数」「スレッド数」「クロック周波数」「TDP」「NPU」「アーキテクチャ」── スペック表に並ぶ数字が多すぎて、何を基準に選べばいいのか途方に暮れる。Intel Core Ultra vs AMD Ryzen AI という構図も、双方がマーケティングで異なる指標を強調するため、まともに比較すること自体が難しい。
正確にはCPU性能は多くの要素で決まる。しかし、クリエイターが購入判断をするうえで最初に見るべき数字は「マルチスレッド性能」と「消費電力(TDP)」の2つで十分だ。この2つを押さえれば、CPU選びで後悔することはまずない。
2026年のCPU勢力図
まずは、2026年6月時点の最新フラッグシップを並べてみよう。
| Core Ultra 9 285K Intel / Arrow Lake |
Ryzen 9 9950X AMD / Granite Ridge |
|
|---|---|---|
| コア構成 | 8P+16E / 24スレッド | 16コア / 32スレッド |
| 最大クロック | 5.7GHz | 5.7GHz |
| TDP(最大) | 125W(最大250W) | 170W |
| NPU | あり(13 TOPS) | なし |
| 実売価格 | 約¥82,000〜¥98,000 | 約¥91,000〜¥94,000 |
※ Intelはハイパースレッディングを廃止したため、24コアでも24スレッド。AMDはSMTを維持し、16コアで32スレッドを実現。
Intelは24コア、AMDは16コアだが、Intelの24コアのうち16基は省電力設計の高効率コア(Eコア)であり、単純なコア数比較では性能は判断できない。AMDは16基すべてがフル性能コアで構成されている。クロックは同等、価格帯も近い。これだけ見ると「どっちでもいい」ように思える。しかし、クリエイティブ用途で見ていくと、単純なスペック表だけでは見えない差が出てくる。
クリエイターが見るべき「2つの数字」
① マルチスレッド性能 ── クリエイター用途で最も重要な指標
クリエイターにとって最も重要なのは、「すべてのコアを同時に使い切った時の処理速度」だ。3DCGのレンダリング、動画のエンコード、AI学習の前処理 ── これらはすべてマルチスレッドに極度に依存する。
世界中のクリエイターが指標にするBlenderの公式スコアで、Ryzen 9 9950Xは「602」、Core Ultra 9 285Kは「544」。約10%の性能差だ。Cinebench系のマルチスレッドテストでも、用途やベンチマークによって差はあるものの、Ryzen 9 9950XはCore Ultra 9 285Kと互角以上に戦える。少なくとも、クリエイター用途でAMDの優位性は十分に確認できる。
一方で、シングルスレッド性能(=1つのコアだけを使う処理の速さ)においては、IntelのArrow Lakeアーキテクチャが約6%リードしている。UI操作や一部のリアルタイム処理ではシングル性能の差が体感に現れることもあるが、レンダリングやエンコード時間への影響は限定的だ。
シングルスレッド系アプリでも、コア数は活きる
TouchDesignerはメインスレッド性能の影響を受けやすいソフトだが、「だったらコア数は要らないのでは?」と思うかもしれない。
しかし、実際の制作現場を想像してほしい。TouchDesignerを動かしながら、OBS(配信・録画)、ブラウザ(リファレンス確認)、Photoshop(テクスチャ編集)、音楽再生ソフトを同時に立ち上げている。コア数が多ければ、TouchDesignerにCPUリソースを専有させつつ、他のアプリを別のコアで余裕をもって動かせる。
実際の制作現場では、単体アプリの特性だけでなく、複数のツールを同時に動かすことが前提になる。そのため、シングルスレッド性能だけでCPUを評価するのは不十分だ。
② 消費電力(TDP)── 「静かさ」と「GPU冷却」を決める隠れた指標
2つ目に見るべき数字は、意外にも「消費電力」だ。これはカタログスペックの中で最も軽視されがちだが、プロの制作環境では決定的に重要な指標である。
Ryzen 9 9950XとCore Ultra 9 285Kはいずれも前世代より電力効率が向上しているが、クリエイティブ系ベンチマーク(Blender、Cinebenchなど)ではAMDが高いワットパフォーマンスを示すケースが多い。特にマルチスレッド処理を長時間走らせる場面では、この差が効いてくる。
「電気代が安い」だけの話ではない。消費電力が低いということは、発熱量が物理的に少ないことを意味する。
- CPUクーラーからの排熱が減り、ケース内温度が下がる
- 直下のPCIeスロットに装着されたGPU(VRAMを含む)への熱的悪影響が軽減される
- ファンの回転数が下がり、長時間作業時の「騒音ストレス」が激減する
CPU発熱が大きいとケース内温度が上がりやすくなり、結果としてGPU冷却にも不利になる場合がある。ケース設計やエアフロー次第ではあるが、CPUの消費電力を抑えることは、システム全体の熱設計を楽にするのだ。