PCを買う。
モニターを増やす。
SSDやNASを追加する。
UPSを置く。
撮影を始めればカメラやレンズが増え、DTMを始めればオーディオインターフェースやMIDI機器が増えていく。
制作環境を整えていくと、最後に意外と大きな問題になるのが、
「これを、どこに置くのか」
ということです。
ハイスペックPCそのものを選ぶ記事は多くあります。しかし、制作環境はPC単体だけでは成立しません。
PCの周囲には、ストレージ、電源、ネットワーク、撮影、音響など、さまざまな機材が集まってきます。
そこで威力を発揮するのが、エレクターやルミナスに代表されるスチールラックです。
一般的には「収納家具」として扱われることの多い製品ですが、CORE SPECでは少し違う視点から考えてみます。
制作機材を安全に置き、増えたときにも組み替えられる「機材収納」として、どの棚を選ぶべきなのか。
1. 結論|制作機材用スチールラックはこう選ぶ
結論から言えば、目的と重視ポイントに合わせて次のように選ぶのが合理的です。
| 目的・重視ポイント | おすすめシリーズ | 棚板耐荷重(等分布) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 長期間使いながら拡張したい | エレクター ベーシックシリーズ | 135kg/棚1段 | 旧ホームエレクター互換、高精度、10年使える制作インフラ |
| コストと拡張性を両立したい | ルミナス レギュラー | 約250kg/棚板1枚 | 25mmポール、高耐荷重、豊富なサイズ展開、最初の1台に最適 |
| 手軽に重量物をまとめたい | アイリスオーヤマ メタルラック | 約250kg/棚板1枚 | 入手性抜群、高剛性、シンプルにPCや工具・UPSを置くのに最適 |
| 小物・軽量機材中心 | 小型・ライトクラスのスチールラック | 50〜80kg/棚1段 | 各社19mmポール等。省スペース・サブ機材・ケーブル収納向け |
※耐荷重は棚板全面に均等に荷重をかけた場合の数値(等分布荷重)です。実際の設置では製品ごとの仕様を確認してください。
制作環境は、気づくと「機材だらけ」になる
最初はPCとモニターだけだったはずなのに、数年するとデスクの周囲にはさまざまなものが増えていきます。
たとえば生成AIや映像制作、DTM、配信を行う環境なら、
- デスクトップPC
- ノートPC
- NAS(ネットワークストレージ)
- 外付けSSD・HDD
- UPS(無停電電源装置)
- Wi-Fiルーター
- スイッチングハブ
- Thunderboltドック
- カメラ・交換レンズ
- キャプチャーボード
- オーディオインターフェース
- MIDIコントローラー
- モニターヘッドフォン
- VRヘッドセット
- ACアダプター・各種ケーブル
などが集まってきます。
問題なのは、機材が同じ大きさではないことです。さらに、新しい機材を買うたびに必要なスペースも変わります。
固定された木製棚では、
- 「あと5cm棚が高ければ入ったのに」
- 「NASを追加したら置く場所がなくなった」
- 「UPSが重すぎて、この棚には載せたくない」
といった問題が起こりやすくなります。その意味で制作環境と相性が良いのが、後から構成を変えられるスチールラックです。
制作機材用ラックで見るべき5つのポイント
1. 耐荷重
まず確認したいのが耐荷重です。
カメラ用品やケーブルだけならそれほど気にする必要はありませんが、デスクトップPC(15〜25kg)、UPS(10〜25kg)、NAS(5〜10kg)などをまとめて載せると、重量は簡単に数十kgになります。
特にUPSは想像以上に重い製品があります。「棚だから載るだろう」ではなく、棚板1枚あたりの耐荷重を確認しておきましょう。
エレクターのベーシックシリーズのワイヤーシェルフは、公式仕様で棚1段あたり135kg(垂直荷重・等分布)。ルミナス レギュラーは棚板1枚あたり約250kg(全面への均等荷重)をうたっています。アイリスオーヤマにも、91×46cmのメタルラック棚板で約250kg(均等荷重)に対応する製品があります。
※耐荷重は均等に荷重した場合などの条件があります。機材の脚による集中荷重や偏荷重では棚板がたわむ恐れがあるため、厚みのあるアクリル板やウッドシェルフの併用が有効です。
2. 奥行
制作環境では、幅よりもむしろ奥行が重要になることがあります。
- カメラやレンズ → 35cm前後でも置きやすい
- NAS・オーディオ機器 → 40〜45cm程度あると使いやすい
- 大型PC・UPS → 45〜60cm程度欲しい場合がある
収納する機材によって必要な奥行が変わります。
特に大型PCをラックに載せる場合は、PCケース本体の寸法だけではなく、背面から出る電源ケーブルやDisplayPortケーブルのスペース(約5〜10cm)まで考える必要があります。奥行45cmのラックに奥行45cmのPCを載せればいい、という単純な話ではありません。
3. 棚の高さを変えられるか
これがスチールラック最大のメリットです。
制作機材は入れ替わります。今はNASを置いていても、数年後には大型UPSを置いているかもしれません。
エレクターのベーシックシリーズは、ポールの溝に沿って約25.4mm単位で棚位置を調整できます。
機材構成が変わったときに棚そのものを買い替えるのではなく、収納側を機材に合わせて再構成できる。これは長期間使う制作環境では大きなメリットです。
4. オプションパーツ
ラックは、本体だけを見て選ばない方がよいでしょう。重要なのは、「あとから何を足せるか」です。
- 追加棚
- ハーフシェルフ
- キャスター
- ウッドシェルフ・アクリル板
- フック・サイドバー
- ハンガーレール
- 落下防止パーツ
などが使えると、用途を大きく変えられます。
エレクターにはハーフシェルフやハンガーレールなどの拡張パーツが用意されており、ルミナス レギュラーも多数の追加パーツを展開しています。制作環境は完成するものではなく、少しずつ変化していくものです。そのためCORE SPECでは、初期価格だけではなく、「後から育てられるか」もラック選びの重要なスペックだと考えます。
5. キャスターを付けるか
機材ラックではキャスターも便利です。特に、
- 背面配線を触る
- 掃除する
- 撮影時だけラックを移動する
- VJ・イベント機材を出し入れする
といった使い方では、ラックそのものを動かせると作業性が大きく変わります。
ただし重量物を載せる場合は、キャスターを付けたときの耐荷重や安定性にも注意が必要です。重いUPSなどは可能なら下段へ。重心を低くすることも、機材ラックでは重要な設計です。
2. エレクター ベーシックシリーズ
長く使うなら有力候補
いわゆる「ホームエレクター」を知っている人も多いと思います。
現在の家庭向けラインでは「エレクター ベーシックシリーズ」が展開されており、旧ホームエレクターと同一モジュール・同サイズ規格で互換性を持ちます。
エレクターの魅力は、単純な価格の安さではありません。棚をシステムとして育てられること。ここにあります。
ワイヤーシェルフだけでなく、ウッドシェルフ、ハーフシェルフ、ハンガーレールなどを組み合わせられるため、最初はPCラックとして使い、数年後には撮影機材ラックへ、さらにその後はNAS・ネットワーク機器置き場へと用途を変えていくこともできます。
エレクターがおすすめな人
- 制作機材が今後も増える
- 棚を長期間使いたい(10年インフラ)
- サイズや棚位置を細かく調整したい
- デザインや質感もある程度重視したい
- 後から構成を変更したい
価格だけならもっと安い選択肢があります。しかし、「10年使う制作インフラ」と考えるなら、エレクターはかなり有力です。
3. ルミナス レギュラー
コストと拡張性のバランスが良い
もっとコストを抑えながら本格的なラックを組みたいなら、ルミナスは非常に選びやすい存在です。
特に制作機材用として注目したいのが、25mmポールを採用するルミナス レギュラーです。
公式では重量物収納やカスタム・拡張用途を想定し、棚板耐荷重約250kg(全面均等荷重)としています。
PC、UPS、プリンター、NASなどをまとめる用途にも向いています。サイズやパーツの選択肢も多いため、最初の機材ラックとしては、かなり扱いやすいシリーズと言えます。
ルミナスがおすすめな人
- 価格を抑えたい
- 大型PCやUPSを載せたい
- パーツを追加したい
- サイズの選択肢が欲しい
- Amazonなどで手軽に買いたい
CORE SPEC的には、性能と価格のバランス重視ならルミナスという位置付けです。
4. アイリスオーヤマ メタルラック
シンプルに重量物をまとめたいなら強い
「メタルラック」という名称で広く知られているアイリスオーヤマも有力候補です。
25mmポールを使った91×46cmクラスの製品では、棚板1枚あたり約250kg、ラック全体約500kg(アジャスター使用時)というモデルもあります。
用途としては、デスクトップPC、プリンター、UPS、NAS、大量のケーブル、工具、撮影機材などを一か所へまとめたい場合に使いやすいでしょう。
ホームセンター系の感覚で選びやすく、とにかく丈夫な棚が欲しいという人には分かりやすい選択です。
用途別|制作機材ラックのおすすめ構成
ラックを効率的に運用する鍵は、「上段・中段・下段の役割分担」を論理的に設計することです。代表的な3つのワークフローに合わせた配置例を図解します。
PC + UPS + NAS(計算・データ制作環境)
振動を嫌うHDDをPCから離し、熱がこもらないよう最上部で換気
床から持ち上げてホコリを回避。前後吸排気スペースを確保
最重量物(15〜25kg)を最下部に置き、低重心化で転倒防止
💡 設計のポイント:UPSを最下段に置くことで、地震時の転倒モーメントを劇的に低減できます。また、電源コードが下から上へ自然に立ち上がるため、ケーブル配線が最も美しくまとまります。
撮影・映像制作機材(カメラ・ライティング・収録)
ホコリの少ない上段に配置。立った姿勢で取り出しやすい高さ
現場へ持ち出すリグや周辺ガジェット、充電ステーションを集約
重く長尺の三脚や大型ケースを下段に収納し、安全に出し入れ
DTM・音響機材(オーディオ・ハード音源・配線)
サイドバーにヘッドフォンフックを掛け、素早くアクセス
デスク脇で手が届く高さに調整。ノブや端子の操作性を最優先
電源ノイズ源を下部にまとめ、オーディオケーブルの干渉を防止
棚板1枚あたり250kgの耐荷重をうたうラックであっても、キャスターを装着した瞬間にラック全体の耐荷重上限は大幅に低下します。
たとえばルミナス レギュラーラックの場合、固定アジャスター時の全体耐荷重が約500kgであるのに対し、標準ナイロンキャスター装着時は「静止時:約300kg / 走行移動時:約50kg」まで耐荷重が制限されます。
PC本体(約20kg)と大型UPS(約20kg)、NAS(約8kg)を載せていると、それだけで走行時制限(50kg)に迫ります。「高耐荷重ラックだから、重量機材を満載したまま自由に動かせる」と思い込んで走行させると、キャスターの軸折れや転倒事故につながる恐れがあります。重量機材を載せて頻繁に移動させる場合は、「大型高耐荷重ウレタンキャスター」への換装や、移動時は慎重に両手で重心を支える運用を徹底してください。
PC本体をラックに置くなら「床置き回避」というメリットもある
大型PCをラックへ置くメリットは、収納だけではありません。
PCを床へ直接置くと、
- ホコリを吸いやすい
- 掃除しにくい
- 配線へアクセスしにくい
- ケーブルが床に散らばりやすい
といった問題があります。
ラックの下段をPCスペースにして少し床から持ち上げるだけでも、メンテナンス性はかなり変わります。
ただし注意したいのが排熱です。
ラックだからといって、PCの吸排気口を塞いでよいわけではありません。
特にRTX 5090などを搭載したハイエンドPCでは発熱量も大きいため、PCの周囲には十分な空間(天面・背面10〜15cm以上)を残すことをおすすめします。
収納効率より、まず冷却です。
UPSはできるだけ下段へ
CORE SPECで特におすすめしたいのが、UPSをラックの最下段へ置く構成です。
UPSは重量があるため、デスク上へ置くには邪魔になりやすく、床へ直接置くと配線や掃除の問題が出ます。
ラック下段へ置けば、
- 上段:カメラ・小物
- 中段:NAS・ネットワーク機器・PC
- 下段:UPS
のように、重量と使用頻度に応じて整理できます。
単に「物を隠す」のではなく、機材の役割に合わせて配置を設計する。これが制作環境における収納の考え方です。
UPSの選定方法や容量計算は、「クリエイター向けUPS(無停電電源装置)の選び方」をご覧ください。
ワイヤーラックは配線との相性が良い
スチールラックにはもう一つ、制作環境で大きなメリットがあります。
背面が開いていることです。
普通の収納家具では、背板がケーブルを邪魔することがあります。一方でワイヤーラックなら、
- 電源
- LAN
- USB
- Thunderbolt
- DisplayPort
- HDMI
- オーディオケーブル
などを好きな方向へ逃がしやすい。
結束バンドや面ファスナーを使えば、ラックのポールやワイヤー部分へケーブルをまとめることもできます。
その意味でも、スチールラックは「収納家具」というより、機材を組み込むためのフレームとして考えると使いやすくなります。
迷ったら幅90cm×奥行45cm前後から考える
具体的なサイズは部屋と機材によりますが、最初の1台として考えやすいのは、
幅90cm前後 × 奥行45cm前後
です。このサイズなら、
- PC
- NAS
- UPS
- プリンター
- 撮影機材
- オーディオ機器
など、多くの制作機材を置きやすくなります。
ただし大型のフルタワーPCや奥行の深いUPSを置く場合は、必ず実寸を測ってください。
重要なのは、ラックを先に選ばないことです。
まず収納したい機材の「幅 × 奥行 × 高さ」を測る。
さらに背面ケーブルの逃げを数cm追加する。
その上で棚を選ぶ。PCとまったく同じで、用途からスペックを逆算するのが失敗しにくい選び方です。
結論:制作環境には「収納のスペック」もある
高性能なPCを買う。
大きなモニターを置く。
高速なSSDを使う。
良い椅子やデスクを選ぶ。
それだけで制作環境が完成するわけではありません。
機材が増えれば、その機材をどこに置き、どう配線し、どう使い続けるかまで考える必要があります。
ラックは地味な存在です。
GPUのように性能が上がるわけでもなければ、モニターのように制作物が直接見えるわけでもありません。
しかし、PC、UPS、NAS、カメラ、音響機器などを一つの環境として成立させる土台になります。
選ぶときは、価格だけではなく、耐荷重・奥行・高さ調整・拡張性・キャスター・配線性まで見てみてください。
迷った場合は、
- 長く育てるなら:エレクター
- コスパと拡張性なら:ルミナス
- 丈夫でシンプルにまとめるなら:アイリスオーヤマ
という選び方から始めればよいでしょう。
制作環境は、PCだけではありません。
そのPCを取り巻くすべてを整えて、初めて「環境」になる。
機材が床やデスクの上に溢れ始めたら、次に買うべきものは新しいガジェットではなく、それらを受け止める棚なのかもしれません。