BTOパソコンを選ぶとき、多くの人はCPUとGPUを最初に確認する。メモリ容量やSSD容量も比較するが、マザーボードまで確認する人は少ない。しかしデスクトップPCを3〜5年使うなら、マザーボードが「将来できること」を決める。本記事では、クリエイターがBTO購入前に確認すべきマザーボードの拡張性を解説する。
この記事の結論
マザーボードは「現在の速さ」ではなく「将来できること」を決める部品。
購入直後のベンチマークには表れないが、メモリ増設・SSD追加・GPU交換・拡張カード搭載・高速ネットワーク対応など、数年後の選択肢を左右する。デスクトップPCの本当の強みは「構成を育てられること」にある。
CPUやGPUは購入時の処理性能を決めるが、マザーボードは購入後にPCをどこまで変えられるかを決める。生成AI・動画編集・配信・TouchDesignerなど、変化の速い分野で長く使うなら、マザーボードの拡張性を購入前に確認しておくことが重要だ。
BTO全体の選び方を先に確認したい方は、BTO購入ガイドをご覧ください。
なぜマザーボードの重要性に気づくのは購入後が多いのか
PC購入時は現在の用途を基準に構成を考える。しかし生成AI・クリエイティブ分野では、購入後に用途が広がることが珍しくない。
画像生成を始めたらローカルLLMや動画生成AIに手を出したくなる。動画編集をしていたら配信やライブ映像制作に発展する。TouchDesignerで映像演出を始めたらDeckLinkやセンサーの追加が必要になる。
そのとき起きる問題がこれだ:
- メモリスロットが埋まっていて増設できない
- M.2 SSDの空きスロットがなく、素材用ストレージを追加できない
- 大型GPUでPCIeスロットが物理的に塞がれている
- キャプチャーボードを挿す場所がない
- 背面USB端子が足りない
- Thunderbolt / USB4に対応していない
購入時の数万円の差が、PC全体の買い替えにつながることがある。マザーボードの確認は「投資寿命を延ばす確認作業」だ。
マザーボードで確認すべき3つの柱
確認すべきポイントは多いが、大きく3つの柱に分けて考えると整理しやすい。
「Creator」「Gaming」という名称だけで判断しない
ASUSのProArtは、クリエイター向けとして高速な外部接続やネットワーク、ストレージ拡張性を重視したシリーズです。一方、ROGはゲーミング向けですが、上位モデルには豊富なM.2スロットや高速USB、強化された電源・冷却設計を備えた製品があります。
「ProArtなら必ず最適」「ROGは制作に向かない」ということではありません。シリーズ名ではなく、必要な端子、スロット配置、最大メモリ容量を個別モデルごとに確認しましょう。
柱1 — 増設できるか(メモリ・SSD)
メモリ:スロット数と最大容量を確認する
メモリスロットが2本か4本かで、将来の増設方法が大きく変わる。たとえば4スロットのマザーボードに16GB×2を搭載する構成なら、2本の空きを残せる。一方、2スロットのマザーボードに16GB×2を搭載すると空きはない。容量だけでなく、スロットの総数と購入時点での使用本数をBTOの構成表で確認したい。
生成AIやローカルLLMでは64GB以上のメモリが有利になる場面が増えている。将来128GBまで拡張する可能性がある場合、4スロットのマザーボードを選んでおくと選択肢が広がる。ただし、2スロットでも大容量モジュールを使って128GBに対応できる製品がある。また、4枚構成ではメモリ速度や安定性に影響が出る場合があるため、対応容量と動作確認済み構成を確認しよう。
メモリ容量の選び方については「メモリ32GBと64GB、どちらを選ぶ?」で詳しく解説している。
SSD:M.2スロット数と使用済みスロット数を確認する
クリエイター用途では、OS用・素材用・キャッシュ用・AIモデル用とSSDを分けたい場面が多い。M.2スロットが2基あっても、購入時に1基しか使われていなければ追加の余地がある。
注意すべきはM.2スロットの共有制限だ。特定のM.2スロットを使用すると、SATAポートやPCIeレーンが無効になるマザーボードがある。これはマザーボードのマニュアルに記載されているため、型番が分かれば事前に確認できる。
ストレージ選びの基本は「SSD vs HDD:クリエイターPCのストレージはどう選ぶ?」を参照してほしい。
柱2 — 拡張できるか(PCIe・Thunderbolt・LAN)
PCIeスロットの実質的な空き
スペック上のPCIeスロット数と、実際に使えるスロット数は異なる。ハイエンドGPUには3〜4スロット分の厚みを持つ大型製品もあり、隣接するPCIeスロットが物理的に塞がることが多い。
キャプチャーボード、DeckLink、高速LANカード、USB拡張カードなどを使うクリエイターは、GPU搭載後の実質的なPCIe空きスロットを確認すべきだ。ATXマザーボードでも、大型GPU搭載後に使えるスロットが1本しかないケースは珍しくない。
Thunderbolt / USB4
USB Type-Cの端子形状だけでは速度・機能は分からない。同じType-C端子でも、USB 3.2 Gen 1(5Gbps)、USB 3.2 Gen 2(10Gbps)、Thunderbolt 4(40Gbps)では帯域幅が大きく異なる。
映像制作やライブ配信で高速な外部ストレージやキャプチャーデバイスを使う場合、Thunderbolt / USB4対応かどうかは重要な確認項目になる。背面USB端子の総数も、周辺機器が多いクリエイターにとっては見落としがちなポイントだ。
Thunderboltキャプチャーの詳細は「Thunderboltキャプチャーとは? USBとの違いと選び方」で解説している。
高速LAN(2.5GbE / 10GbE)
NASに動画素材を保存して作業する場合、ネットワーク性能が制作効率に直結する。大容量ファイルの転送や、高ビットレートの映像素材をNAS上で直接扱う場合、1GbEがボトルネックになることがある。2.5GbE標準搭載のマザーボードは増えているが、10GbEは標準搭載されていないことも多く、必要に応じてPCIeカードによる増設を検討する。ただし、大型GPUでPCIeスロットが塞がれていると増設できない。
柱3 — 安定して使えるか(電源設計・冷却・型番公開)
長時間高負荷運用を想定しているか
レンダリング、エンコード、シミュレーション、AI処理では、高い負荷が長時間継続することがある。ゲームとはCPU・GPUへの負荷のかかり方や、処理の継続時間が異なる場合がある。
高性能CPUを安定駆動するためのVRM(電源回路)設計、VRMヒートシンクの有無、M.2 SSD用ヒートシンク、ファンやポンプの接続端子数、温度監視機能——こうした項目が長時間運用の安定性を左右する。
マザーボードの型番が公開されているか
BTOパソコンでは「B850チップセット搭載」「Z890チップセット搭載」とだけ書かれていることが多い。しかし同じチップセットでも、製品ごとにメモリスロット数、M.2スロット数、PCIe配置、USB端子数、VRM設計は異なる。
型番が分かれば、メーカー公式サイトで仕様表・マニュアル・BIOS情報・対応メモリリスト(QVL)を確認できる。型番が公開されていること自体が品質を保証するわけではないが、購入者が拡張性を事前に確認できるのは大きなメリットだ。
| 製品ページの記載 | 購入前に分かること |
|---|---|
| MSI/ASUSなどの正確な型番を掲載 | M.2、PCIe配置、USB、LAN、BIOSを公式サイトで確認できる |
| 「B850マザーボード」だけを掲載 | 対応CPUの大枠は分かるが、スロット配置までは判断しにくい |
マザーボード以外も重要
どれだけ良いマザーボードを選んでも、ケースの排熱設計が悪い、電源容量が足りない、CPUクーラーが不十分——であれば安定運用はできない。マザーボード・ケース・電源・冷却を一つのシステムとして評価する視点が必要だ。
📋 BTO購入前 マザーボード チェックリスト
- ☐ マザーボードのメーカー名と型番が分かるか
- ☐ ATX / Micro ATX など規格は何か
- ☐ メモリスロットは何本あるか(購入時の使用本数も確認)
- ☐ 最大メモリ容量はいくつか
- ☐ M.2スロットは何基あるか(購入時の使用数も確認)
- ☐ PCIeスロットは何本あるか
- ☐ 背面USB端子は十分にあるか
- ☐ 有線LANは1GbE / 2.5GbE / 10GbE のどれか
- ☐ BIOSやドライバーを公式から入手できるか
- ☐ 大型GPU搭載後もPCIeスロットを使えるか
- ☐ キャプチャーボードやDeckLinkを搭載できるか
- ☐ SSDを素材・キャッシュ・AIモデル用に分けられるか
- ☐ Thunderbolt / USB4 が必要か
- ☐ 128GB以上のメモリへ増設できるか
- ☐ 高性能CPUの長時間運用を想定した設計か
- ☐ 電源容量・ケース内スペースに将来の余裕があるか
チェックリストの確認ができたら、ショップごとの拡張性を比較してみましょう。
どのショップを選ぶか — 3つのタイプ
BTOショップの品質は、ブランド名だけで一律に決まるものではない。同じショップでもモデルや時期によって構成は変わる。ただし、ショップの設計思想を理解しておくと、自分に合った選び方が見えてくる。
パーツ選択・情報開示型
サイコムやパソコンSHOPアークのように、市販パーツベースで構成を選べるショップ。マザーボードの型番まで確認しやすく、メーカー公式サイトで仕様を事前に照合できる。メモリ・SSD・PCIe・ネットワークの拡張性を重視する人に向いている。
標準パーツ・バランス型
ツクモのG-GEARやFRONTIERなど。標準規格パーツで価格と性能のバランスを取るショップ。マザーボードの型番はモデルごとに確認が必要だが、ATX規格の市販パーツが使われていれば拡張性は確保しやすい。
完成品・統合設計型
OMENやAlienwareなど大手メーカー系。完成品としての安定性・デザイン・サポートが強み。ただし増設や部品交換の設計思想がBTOとは異なる場合がある。購入時に十分な構成を選べるなら、完成品として使い続ける前提で選ぶのも合理的だ。
自分で増設しながら長く使いたいのか、完成品としてサポートを受けながら使いたいのか。それによって最適なショップタイプは変わる。
高価なマザーボードが正解とは限らない
ハイエンドマザーボードには、オーバークロック向けの強化VRM、RGB LEDコントロール、Wi-Fi 7、高級オーディオコーデックなど、自分の用途には不要な機能が価格に含まれていることがある。
重要なのは、自分の用途に必要な機能——メモリスロット数、M.2スロット数、PCIeの実質空きスロット、USB端子数、LAN速度——があるかどうかだ。不要な機能に予算を使うより、電源やSSDにその分を回した方が制作環境としては有利になることが多い。
良いマザーボードとは、最も高価な製品ではなく、将来やりたいことを塞がない製品です。
まとめ — デスクトップPCは「育てられるか」まで見て選ぶ
CPU・GPUは購入時の処理性能を決める。マザーボードは購入後にPCをどこまで変えられるかを決める。
生成AI・動画編集・配信・TouchDesignerなどの分野では変化が速い。今日必要のない機能が、1年後には必須になることがある。メモリ増設・SSD追加・GPU交換・拡張カード搭載という余地を残しておくことが、PCの投資寿命を延ばすことにつながる。
BTOパソコンを選ぶときは、CPUとGPUだけでなく、マザーボードの拡張性まで確認してほしい。デスクトップPCは「育てられるか」まで見て選ぶ。これが、後悔しないPC選びの鍵だ。