COLUMN — 計算資源シリーズ #5

RAM 128GBでVRAM不足は補える?
メインメモリとGPUメモリの違い・オフロードの限界【2026年】

公開: 2026.08.23 | 更新: 2026.08.23 広告・PR

── 「入る」と「速い」は違う。AI時代のメモリを、容量・帯域・転送から考える

RAM 128GBでVRAM不足は補える? メインメモリとGPUメモリの違い・オフロードの限界【2026年】
画像はイメージです。
計算資源シリーズ(第5回)

スペック表の数値比較にとどまらず、「計算資源をどう持ち、何に使い、どのような価値へ変換するか」を用途から考えるシリーズです。第5回は、「RAM 128GB積めばVRAM 16GBの不足を補えるか?」という疑問を解剖し、容量・帯域・転送経路の3軸からCPUオフロードの現実とPCIeバスのボトルネックを整理します。

ローカルLLMや画像生成AI、動画生成AIを使おうとすると、必ずと言っていいほど直面するのが「VRAM不足(Out of Memory)」の問題です。

例えば、RTX 5080は16GBのVRAMを搭載しています。そこで、こんな疑問を持つ人も少なくありません。
「PC側のメインメモリ(RAM)を128GB積めば、VRAM 16GBの不足もRAMで補えるのでは?」

実際、AIソフトの中にはGPUのVRAMに入り切らないモデルをメインメモリへ逃がす「CPUオフロード」に対応するものがあります。それなら高価な大容量VRAM GPUを買わなくても良いように思えます。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。結論から言えば、メインメモリ(RAM)をいくら増やしても、GPUメモリ(VRAM)の代わりにはなりません。
「モデルが読み込める(入る)」ことと、「実用的な速度で動く(速い)」ことは、根本的に別次元の問題だからです。

本記事では、メモリ帯域・PCIeバスの転送速度・CPUオフロードの現実を、容量・帯域・転送の3つの視点からわかりやすく整理します。

なぜ「RAM 128GBで代用できる」という誤解が生まれるのか?

「RAMを増やせばVRAM不足を解決できる」という誤解が生まれる背景には、2つの現実的な仕組みがあります。

  1. ① AIフレームワークのCPUオフロード機能:
    Hugging FaceのAccelerateやDiffusers、Ollama、llama.cppなど多くのAI実行環境には、GPUのVRAMに入り切らないモデルの一部(または大部分)をメインメモリ(RAM)に退避させて実行する機能が備わっています。
  2. ② Windowsの「共有GPUメモリ」機能:
    WindowsではGPUが必要に応じてシステムRAMを共有メモリとして利用できる仕組みがあります。ただし、これは専用VRAMが増えるという意味ではなく、利用可能量も固定的にRAMの半分が割り当てられるわけではありません。

これらがあるため、「16GB VRAM+128GB RAMなら、大容量モデルもそのまま動かせるのでは?」と期待してしまうのです。

対応するソフトウェアでは、VRAMだけでは入り切らない処理を実行できる場合があります。しかし、そこから先で圧倒的な性能差に直面することになります。

💡 メモリ構造を「作業机」と「倉庫」で例えると
■ VRAM = 目の前にある超高速な「作業机」 職人(GPUコア)の手が直接届く場所にあり、超ハイスピードで工具や材料を取り出せます。ただし机の面積(16GB〜32GB)には上限があります。
■ RAM = 離れた場所にある巨大な「倉庫」 128GBなど広大な保管スペースがありますが、作業机からは遠く離れています。
■ PCIeバス = 倉庫と机を結ぶ「狭い通路」 倉庫から材料を運ぶための台車用の通路です。どれだけ倉庫が広くても、この通路を通れるスピードには限界があります。
■ Unified Memory = 一体型の「巨大な作業場」 Macのユニファイドメモリは、CPUとGPUが同一の高帯域メモリ空間を直接共有する設計です。

速度差の正体|メモリ帯域幅(Bandwidth)の圧倒的な壁

「入る」と「速い」が全く違う根本原因は、メモリ帯域幅(データを1秒間にどれだけ転送できるか)の桁違いな差にあります。

GPUがAIの行列演算を行う際、数千〜数万の計算コアが一斉にメモリからパラメータを読み出します。このとき求められるのは「容量」ではなく「帯域幅(データの通り道の太さ)」です。

規格・ハードウェア 接続場所・役割 公称・理論メモリ帯域
GeForce RTX 5090 GPU専用VRAM (GDDR7) 約 1,792 GB/s
GeForce RTX 5080 GPU専用VRAM (GDDR7) 約 960 GB/s
Apple M3 Ultra Unified Memory 約 819 GB/s
Apple M4 Max Unified Memory 410 〜 546 GB/s
DDR5-5600 (Dual Channel) PCメインメモリ (RAM) 約 89.6 GB/s
PCIe 5.0 x16 バス RAM ⇔ VRAM 通信経路 約 63.0 GB/s
PCIe 4.0 x16 バス RAM ⇔ VRAM 通信経路 約 31.5 GB/s

※上記は各規格・製品の公称値・理論値を並べた比較です。実際のAI処理速度がこの比率になるわけではありません。

表を見ると一目瞭然です。GPU専用のGDDR7メモリが毎秒1,000〜1,800GBという圧倒的な猛スピードでデータを流し込めるのに対し、PCのDDR5メモリは約90GB/sにとどまります。

さらに深刻なのが、RAMとGPUの間を結ぶPCIeバスのボトルネックです。PCIe 4.0 x16では約31.5GB/s、最新のPCIe 5.0 x16でも約63GB/sしか通りません。

GPUがどれだけ超高速な計算能力を持っていても、データがPCIeという細いストローを通ってしか届かないため、計算コアのほとんどがデータ待ち(アイドル状態)になってしまうのです。

「入る」と「速い」の違い|CPUオフロードで何が起きるか

では、実際にCPUオフロードを行うとどのような挙動になるのでしょうか。

オフロードの方式や頻度によって、体感速度の低下度合いは大きく異なります。

⚙️ CPUオフロードの主な実行方式

1. レイヤー単位の順次転送(Sequential CPU Offload)

モデルの各層(レイヤー)を1つずつRAMからVRAMへ転送して計算し、計算が終わったら次のレイヤーを読み込む方式。VRAM消費を最小限に抑えられますが、1ステップごとにPCIe転送が発生するため、全体の所要時間は極めて長くなります。

2. モデル/グループ単位のオフロード(Model / Group Offload)

Model Offloadでは、Text EncoderやVAEなどパイプラインを構成するコンポーネントを、必要なタイミングだけGPUへ移します。一方、Group Offloadではモデル内部の複数レイヤーをグループ単位でCPUとGPUの間に移動します。どちらもSequential CPU Offloadより転送・同期回数を抑えやすく、VRAM使用量と速度低下のバランスを取りやすい方式です。

3. ローカルLLMのレイヤー分割実行(llama.cpp / Ollama)

全32層のうち20層をGPU VRAM、残り12層をCPU RAM+CPUコアで分担して計算する方式。GPUだけで完結する場合に比べるとトークン生成速度は低下しますが、VRAMに入り切らないモデルを動かす実用的な手段として広く使われています。

💡 オフロードの速度低下は一律ではない

オフロードによる速度低下の幅は、「どれだけのデータ量を、どれだけ頻繁にRAMとVRAMの間で往復させるか」によって劇的に変わります。
1回の処理で数回だけモジュールを入れ替える場合は実用範囲に収まることもありますが、1トークン生成・1ステップごとに毎回復路転送が発生する構成では、VRAM完結時と比べて桁違いに遅くなります。

なぜMacのUnified MemoryはRAMで動くのか?

「Windows PCでRAMオフロードが遅いなら、なぜMac Studio(M3 Ultra / M4 Max等)は大容量RAMでローカルLLMを快適に動かせるのか?」という疑問もよく寄せられます。

その理由は、Macのユニファイドメモリアーキテクチャには「PCIeバス」という分離された通信経路が存在しないからです。

Apple Siliconでは、SoC(システム・オン・チップ)の内部にCPUとGPU、そして大容量メモリ(最大128GB〜512GB)が直結されています。

  • 帯域幅が極めて広い: M3 Ultraで約819GB/s、M4 Maxで最大546GB/sと、PCメインメモリ(約90GB/s)の数倍〜十倍近く太い。
  • ゼロコピーアクセス: CPUが読み込んだモデルデータをGPUがそのままメモリ内で参照できるため、RAMからVRAMへの「データ転送」そのものが不要。

つまり、Macのメモリは「PCのRAM」ではなく、「GPUのVRAMに近い超広帯域メモリをシステム全体で共有している」構造なのです。

ARCHITECTURE SUMMARY
RAMを増やす → 「置ける場所」が増える
VRAMを増やす → 「GPU内で完結できる範囲」が増える
PCIeを速くする → 「移動の詰まり」を緩和する

※ただし、PCIeをどれだけ速くしても、VRAMそのものの速度にはなりません。

実践判断|「128GB RAM+5080」vs「64GB RAM+5090」どちらを選ぶべき?

PCを購入・カスタマイズする際、同等の予算で「RAMを特盛にするか」「GPUのVRAMランクを上げるか」で迷うケースがあります。

用途と目的から、明確な判断基準を整理します。

パターン A

RAM 128GB + RTX 5080(16GB VRAM)

総合制作環境重視・マルチタスク派

  • ✅ 3DCGレンダリング・After Effects・動画編集・大量アセット展開が極めて快適
  • ✅ 複数アプリを同時に立ち上げてもメモリ枯渇しない
  • ⚠️ 16GBを超えるAIモデルや高解像度生成ではオフロードが発生し低速化する
RTX 5080搭載おすすめBTOを見る →
パターン B

RAM 64GB + RTX 5090(32GB VRAM)

AI処理の高速完結・モデル規模重視派

  • ✅ モデルと処理に必要なワーク領域(KV cache・latents等)が32GB VRAM内に収まれば、CPUオフロードを避けてGPU内で高速に処理しやすい
  • ✅ VRAM完結時はPCIeバス経由のボトルネックを回避できる
  • ✅ 64GB RAMがあれば日常のAI開発や制作でも十分余裕がある
RTX 5090搭載おすすめBTOを見る →

※70B級など、32GB VRAMでも収まらない超巨大モデルでは、量子化(4bit/8bit)やRAMオフロードが必要になる場合があります。

目的・課題別の次のステップ

自分のやりたい作業や抱えているボトルネックに合わせて、最適な情報をご確認ください。

よくある質問

RAMを128GB積めば、70BモデルのローカルLLMを動かせますか? +

量子化した70B級モデルなどでは128GB RAMで動作可能な構成もありますが、生成速度は大きく低下する場合があります。GPUのVRAMで動作させた場合と比べて大幅に遅くなるため、実用的な速度を求める場合は量子化してVRAM内に収めるか、32GB以上のVRAMを持つGPUの導入が推奨されます。

Windowsの共有GPUメモリで画像生成AIは動きますか? +

対応するソフトウェアであれば、VRAM不足時に共有メモリへ退避してクラッシュを回避できる場合があります。ただし、共有メモリへの退避が発生すると生成時間は大幅に悪化します。高速な生成を行いたい場合は、VRAM内にモデルとワークスペースが収まる設定や解像度に調整することが重要です。

PCIe 5.0対応マザーボードならオフロードは速くなりますか? +

PCIe 4.0比で帯域は2倍(約63GB/s)に向上するため、転送のボトルネックは緩和されます。しかし、GPUのGDDR7専用メモリ(1,000〜1,800GB/s)と比べると依然として十数分の一の帯域であるため、VRAMそのものの代わりにはなりません。

Mac Studioならなぜ大容量メモリでAIが速く動くのですか? +

Apple Siliconはユニファイドメモリアーキテクチャを採用しており、CPUとGPUが同一の高帯域メモリ(最大800GB/s超)を共有しているためです。PCIeバスを経由したデータ転送が発生しないため、大容量モデルでも高速に処理できます。

AI制作用途ならメインメモリ(RAM)は何GB積むべきですか? +

幅広いAI制作を行うなら64GBは余裕を持ちやすい目安です。ComfyUIの大規模ワークフローや3DCG、動画編集などを同時に行うヘビーユーザーであれば128GBが選択肢となりますが、AI処理そのものの速度向上にはRAM増設よりもVRAM容量の大きいGPUが直結します。

SERIES 計算資源シリーズ

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