ローカルLLM用のPCを探していると、少し不思議なスペックを見かけるようになりました。
128GBのメモリを搭載し、その大きなメモリ空間をCPUとGPUで共有するPCです。
一般的な高性能PCでは、CPUが使うRAMとGPUが使うVRAMは別々です。
たとえばGeForce RTX 5090は32GBの高速なGDDR7をGPU専用メモリとして搭載しています。
一方、Ryzen AI Max+ 395搭載PCでは最大128GB、AppleのM5 Ultra搭載Mac Studioではさらに大容量のユニファイドメモリを利用できます。
ここで注意したいのは、
128GBのユニファイドメモリ = 128GBの高速VRAM
ではないということです。
AI PCを考えるときは、単純な容量比較ではなく、
- Capacity(容量)
- Bandwidth(帯域)
- Compute(演算性能)
- Ecosystem(実行環境)
を分けて考える必要があります。
本記事では、RAM・VRAM・ユニファイドメモリの違いから、なぜローカルAIで大容量共有メモリが注目されているのかまで整理します。
目次
30秒で分かる:ユニファイドメモリとは?
先に結論です。
| 項目 | RAM | GPU専用VRAM | ユニファイド/共有メモリ |
|---|---|---|---|
| 主な利用者 | CPU・OS | GPU | CPU・GPUなど |
| 代表例 | DDR5 | GDDR7 | Apple Silicon / Ryzen AI Max / GB10 |
| 特徴 | 汎用的 | 高帯域・GPU処理向け | 大容量メモリ空間を共有しやすい |
| AIでの強み | CPU処理・オフロード | 高速GPU演算 | 大きなモデルを収容しやすい |
| 注意点 | GPUとは別領域 | 容量上限がある | VRAMと同じ性能ではない |
重要なのは、
大容量だから高速なのではなく、大容量だから「収まるモデル」が増える。
という点です。
逆にGPU専用VRAMは容量が小さくても、高い帯域と強力なGPU演算性能を持つ場合があります。
つまり、
「入るか」と「速いか」は別の問題です。
RAMとVRAMは、そもそも何が違う?
一般的なWindowsデスクトップPCを考えてみます。
CPUにはDDR5などのシステムRAMがあります。
一方、GeForce RTXなどの独立GPUにはGDDR7などのVRAMがあります。
イメージとしては、
という構造です。
CPUとGPUには、それぞれ得意な処理があります。
そのため別々のメモリを持つこと自体には大きなメリットがあります。
特にRTX 5090のような高性能GPUは、高速な専用VRAMとGPU演算性能、CUDAを中心としたソフトウェア環境を組み合わせることで、
- 画像生成
- 動画生成
- 3DCG
- GPUレンダリング
- AI推論
- AI学習
などを高速に処理できます。
問題になるのは、VRAMに入りきらないほど大きなAIモデルを扱いたい場合です。
※RAMとVRAMの転送やCPUオフロードの速度限界については、「RAMとVRAM、CPUオフロードの違い」で詳しく解説しています。
ユニファイドメモリではCPUとGPUが大きなメモリ空間を共有する
Apple Siliconで広く知られるようになったのがUnified Memoryです。
CPUとGPUが完全に別々のメモリを持つのではなく、大きなメモリ空間を共有します。
概念的には、
┌ CPU │ Memory ─┼ GPU │ └ その他の処理
に近い構造です。
Ryzen AI Maxシリーズも、大容量LPDDR5XをCPUとGPUで利用できる構成を採用しています。
Ryzen AI Max+ 395では最大128GBのシステムメモリを搭載でき、128GB構成ではAMD Variable Graphics Memory(VGM)によって最大96GBをグラフィックス用途へ割り当てる設定が可能です。
ただし、この96GBを、
「RTX PROなどの96GB専用VRAMと同じもの」
と考えるのは適切ではありません。
物理構造、帯域、GPU性能、ソフトウェア環境が異なるからです。
なぜローカルLLMでは「容量」が重要なのか
ローカルLLMでは、まずモデルそのものをメモリに置く必要があります。
必要になるメモリはモデルの重みだけではありません。
概念的には、
と考えます。
モデルが大きくなるほどモデル重みが増えます。
さらにコンテキスト長を伸ばしたり、複数の処理を同時に実行したりすると、必要メモリも増えていきます。
ここで32GBのVRAMにモデル全体が収まらなければ、
- 一部をRAMへ逃がす
- CPUオフロードする
- モデルをさらに量子化する
- より小さなモデルへ変更する
といった対応が必要になります。
一方、大容量共有メモリを持つPCでは、
GPU専用VRAMほど高速ではなくても、より大きなモデルを一つのメモリ空間へ収められる可能性があります。
これがローカルAIで注目される最大の理由です。
※モデルサイズ別の理論値と必要メモリの詳細は、「7B〜120Bモデルサイズ別VRAM早見表」で整理しています。
128GBだからRTX 5090より強い、ではない
ここは特に重要です。
たとえばGeForce RTX 5090は32GBのGDDR7を搭載しています。
一方、Ryzen AI Max+ 395搭載機には128GBメモリ構成があります。
数字だけを見ると、
なので、
「128GB機はRTX 5090より4倍強いのでは?」
と考えたくなります。
しかし、これは違います。
PCのAI性能を考えるには、少なくとも次の4軸を分離する必要があります。
CORE SPECの4大評価軸
容量|モデルがメモリに収まるか
モデルやデータをどこまでメモリ内へ収められるか。大規模LLMでは非常に重要です。大容量共有メモリの最大の強みはここです。
帯域|やり取りのスピード
メモリと演算装置の間で、どれだけ高速にデータをやり取りできるか。同じ容量でもメモリ帯域が違えば、処理速度は同じではありません。RTX 5090のようなGPUは高速なGDDR7を利用します。Apple M5 Ultraのように、大容量と非常に高いメモリ帯域(1.2TB/s)を組み合わせる設計もあります。
演算能力|GPUそのものの計算力
GPUや専用演算器そのものが、どれだけ高速に計算できるか。メモリ容量が大きくても、GPU演算性能まで比例して高くなるわけではありません。画像生成、動画生成、3DCG、GPUレンダリングなどでは、ここが非常に重要になります。
実行環境|ソフトが動くか
見落とされやすいのがソフトウェアです。代表的にはNVIDIA(CUDA)、AMD(ROCm / Vulkanなど)、Apple(Metal / MLX)があります。使いたいソフトウェアやAIフレームワークが対応していなければ、理論上のメモリ容量が大きくても意味がありません。
その結果、CORE SPECでは、
Capacity ≠ Bandwidth ≠ Compute ≠ Ecosystem
を、大容量AI PCを選ぶ基本原則とします。
Apple・AMD・NVIDIAでも「共有メモリ」の意味は同一ではない
ここにも注意が必要です。
Apple Silicon、Ryzen AI Max、NVIDIA GB10はいずれもCPUとGPUの間で大容量メモリを共有しやすい設計ですが、同じ実装ではありません。
Apple Silicon
Mac StudioのM5 Ultraでは、最大512GBのユニファイドメモリを選択でき、非常に大きなメモリ空間と高い帯域(1.2TB/s)を組み合わせています。
MLXをはじめ、Apple Siliconへ最適化されたAI環境を使えることも大きな特徴です。
AMD Ryzen AI Max
Ryzen AI Max+ 395では最大128GBのLPDDR5Xメモリを搭載できます。
WindowsやLinuxベースの小型PCとして利用できることが大きな特徴です。128GB構成では最大96GBをグラフィックス用途へ設定でき、大規模ローカルLLMを扱う選択肢として注目されています。
NVIDIA GB10 / DGX Spark
NVIDIAもDGX Sparkで128GBのcoherent unified system memoryを採用しています。
これはNVIDIA自身が、大規模AIモデルをデスクトップで扱うために大容量統合メモリを選択していることを意味します。
つまり大容量共有メモリは、
Appleだけの特殊な設計ではなく、AI時代のコンピュータ設計における一つの重要な方向性
になりつつあります。
ではRTXは不要になるのか?
そうではありません。
むしろ役割が明確になります。
RTXが強い処理
- ✔ ComfyUI / 画像生成 / 動画生成
- ✔ Blender / TouchDesigner / DaVinci Resolve
- ✔ CUDAを前提とするAI処理・高速GPU演算
- ✔ 32GB以内で完結する超高速な推論
大容量共有メモリPCが向く処理
- ✔ 大規模ローカルLLMの収容
- ✔ 長文RAG(検索拡張生成)・大きなコンテキスト
- ✔ コーディングAI / 自律型AIエージェント
- ✔ 文書解析 / AIサービスの常時待機稼働
そのため、
「RTXか、ユニファイドメモリか」
という二者択一で考える必要はありません。
※128GB共有メモリとRTX 5090 32GBを実際のAI用途で比較したい場合は、「128GBユニファイドメモリPCとRTX 5090 32GBはどちらがAI向け?」で容量・帯域・演算能力・実行環境の4軸から整理しています。
※Mac StudioとRTXのローカルLLM用途での詳細比較は、「Mac StudioとRTXをローカルLLM用途で比較する」をご覧ください。
※Mac Studio M5 Ultra(最大512GB / 1.2TB/s)とRyzen AI Max+ 395(最大128GB / 256GB/s)の共有メモリ直接比較は、「Mac Studio M5 UltraとRyzen AI Max+ 395はどちらがローカルAI向け?」でメモリ・帯域・MLX・ROCmを比較しています。
RTX制作PC+大容量AI PCという考え方
制作環境では、むしろ役割を分ける方法があります。
RTX制作PC ├ 3DCG ├ 映像 ├ ComfyUI ├ TouchDesigner └ CUDA処理 + 大容量共有メモリPC ├ LLM ├ RAG ├ Coding AI ├ AI Agent └ 文書解析
1台のPCですべてを最高性能にしようとするのではなく、
計算資源を役割で分ける。
これはAI時代のPC環境を考えるうえで、重要な選択肢になっていくとCORE SPECでは考えています。
大容量ユニファイドメモリPCを選ぶなら
現在はRyzen AI Max+ 395を搭載した128GBクラスのミニPCやワークステーション、M5 Ultra搭載Mac Studioなど、実際に購入できる選択肢も増えています。
CORE SPECでは、
- GMKtec EVO-X2
- GMKtec EVO-X3
- MINISFORUM MS-S1 MAX
- HP Z2 Mini G1a
- Mac Studio M5 Ultra
を用途別に比較しています。
結論:AI PCは「何GBあるか」だけでは選べない
ユニファイドメモリの価値は、
「RAMとVRAMを単純に足したようなもの」
ではありません。
大きなAIモデルを一つのメモリ空間へ収めやすくするという、新しい選択肢です。
一方で、高速な専用VRAMや強力なGPU演算性能、CUDAのようなソフトウェア環境には別の価値があります。
だからこそPCを選ぶときは、
を順番に見る必要があります。
最初に考えるべきなのは、
「一番数字の大きなPCはどれか」
ではありません。
自分が動かしたい処理には、どんな計算資源が必要なのか。
そこから考えることで、AI時代のPCは単なるスペック競争ではなく、自分の目的に合わせて組み立てる環境になります。
よくある質問
128GBユニファイドメモリは128GB VRAMですか? +
いいえ。CPU、GPU、OS、アプリなどが利用する共有メモリ空間です。GPU専用の128GB VRAMと同じものではありません。
Ryzen AI Max+ 395の128GBはすべてGPUから使えますか? +
128GBすべてを専用VRAMとして固定するわけではありません。AMDのVariable Graphics Memoryでは、128GB構成で最大96GBをグラフィックス用途へ設定できます。
RTX 5090 32GBより128GB共有メモリPCの方がAIに強いですか? +
用途によります。モデルをメモリへ収める能力では128GB共有メモリが有利になる場合があります。一方、高速なGPU演算やCUDAを使う処理ではRTX 5090が強力です。
ローカルLLMには64GBと128GBのどちらが必要ですか? +
利用するモデルサイズ、量子化、コンテキスト長、同時実行数によって異なります。「Ryzen AI Max+ 395は64GBと128GBどちらを選ぶ?」で具体的な境界を整理しています。
Apple・AMD・NVIDIAのユニファイドメモリは同じものですか? +
同じではありません。CPUとGPUが大容量メモリを共有するという方向性には共通点がありますが、ハードウェア構造、帯域、OS、API、対応ソフトウェアは異なります。
※仕様、価格、構成は執筆時点のものであり、変更される場合があります。購入・検討前に各社公式サイトをご確認ください。
🧭 大容量AIメモリ選びの道標
容量、GPU演算、プラットフォーム、実機、配置。
今の迷いに合わせて、必要な判断へ移動できます。
VRAM・RAMとの違いと、大容量共有メモリがローカルAIで注目される理由を理解する。
モデルサイズ、コンテキスト、RAG・Agent運用から必要なメモリ容量を判断する。
モデルを収める容量と、高速に計算するGPU性能の違いから判断する。
MLX / macOSか、ROCm・Windows / Linuxか。実行環境とメモリ構成から選ぶ。
完成したAIノードか、OCuLinkで外へ拡張できるAIノードかを判断する。
1台へ集中するか、CUDA制作と大容量AIを別ノードへ役割分担するかを設計する。
